医療関係者の方へFOR MEDICAL PERSONNEL

Q & A

臨床遺伝専門医を目指すみなさまへ

遺伝医療・ゲノム医療の急速な発展に伴い、遺伝医学の知識は必要不可欠なものとなっています。臨床遺伝専門医はすべての診療科からのコンサルテーションに応じ、適切な遺伝医療を実行するとともに、各医療機関において発生することが予想される遺伝子に関連した問題の解決を担う医師です。研修手続きを行ってから一定期間の研修が必要になります。
当院は、臨床遺伝専門医認定研修施設であり、遺伝カウンセリングの陪席・担当などの研修を受け入れています。
当院での研修を希望される先生は、直接当院の臨床遺伝指導医に依頼されるか、臨床遺伝医療部までご連絡ください。

臨床遺伝に興味をお持ちの医療関係者のみなさまへ

当部では、月1回のカンファレンスを実施しており、個々の症例について深いディスカッションを行っています。また、福岡県の臨床遺伝セミナー(FGCセミナー)にも参加しており、臨床遺伝学の基礎を学ぶだけでなく、各分野のご専門の先生が講義や研究紹介を行ったり、ディスカッションをしたりすることによって、メンバーが臨床遺伝に関する造詣を深めることができる場となっています。
ご興味がある方は、臨床遺伝医療部までご連絡ください。一緒に福岡県・九州地域の遺伝医療を盛り上げましょう!

遺伝カウンセリングとは

遺伝カウンセリングは、クライエント(来談者)の状況を伺いながら、正確な情報提供を行うことで、クライエントが自らの力で問題を解決して行けるように、心理面や社会面を含めた支援を行うプロセスです。
このプロセスには、

(1) 疾患の発生および再発の可能性を評価するための家族歴および病歴の解釈

(2) 遺伝現象、検査、マネージメント、予防、資源および研究についての教育

(3) インフォームド・チョイス(十分な情報を得た上での自律的選択)、およびリスクや状況への適応を促進するためのカウンセリングなどが含まれる、とされています。

遺伝カウンセリングと一般診療の違い

一般診療では、既に症状のある患者さん本人を対象にすることに対し、遺伝カウンセリングでは症状のある患者さんだけでなく、症状のない方も、そしてそのご家族や血縁者の方も対象となります。
また、遺伝カウンセリングでは、医療者側が一方的に指導や助言をすることはありませんし、「遺伝が関係する丁寧なインフォームド・コンセント」だけでは、遺伝カウンセリングとは言えないでしょう。さらには、「カウンセリング」と付いていますが、心理カウンセリングなどの心理療法を行う場でもありません。

遺伝カウンセリングや遺伝医療に関わる専門職

遺伝カウンセリングを専門として行う職種は、臨床遺伝専門医と認定遺伝カウンセラー®︎です。これらは、日本遺伝カウンセリング学会と日本人類遺伝学会の共同により認定される遺伝医療専門職です。遺伝カウンセリングは全ての医療スタッフが基本的な遺伝カウンセリングに対応できることが理想とされていますが、実際には対応が難しいこともあります。高度な遺伝カウンセリングにも幅広く対応できるのが、臨床遺伝専門医と認定遺伝カウンセラー®︎です。
また、2017年より日本看護協会より遺伝看護専門看護師の認定が開始されました。遺伝看護専門看護師は、遺伝性疾患をもつ患者さんの診断・予防・治療等に関する意思決定支援とQOL向上を目指し、患者さんの生涯に寄り添って生活支援を行う看護師です。
遺伝医療・ゲノム医療の急速な発展に伴い、これら遺伝医療専門職の需要が増加しています。

認定遺伝カウンセラー®️とは

認定遺伝カウンセラー®️とは、遺伝医療を必要としている患者さんや家族に適切な遺伝情報や社会の支援体勢等を含むさまざまな情報提供を行い、心理的、社会的サポートを通して当事者の自律的な意思決定を支援する保健医療・専門職です。
認定遺伝カウンセラー®️は、医療技術を提供したり、研究を行う立場とは一線を画し、独立した立場から患者さんを援助することが求められています。最新の遺伝医学の知識を持ち、専門的なカウンセリング技術を身につけており、倫理的・法的・社会的課題(Ethical-legal-social issues; ELSI)に対応でき、主治医や他の診療部門との協力関係(チーム)を構成・維持できる存在です。(認定遺伝カウンセラー制度委員会HPより作成)
「カウンセラー」と付いていますが、「心理カウンセラー」とは異なり、心理カウンセリングなどの心理療法を行うことはありません。

対象疾患

遺伝が関係している疾患であれば、どのような疾患も対象としています。相談内容について、予約受付時のお電話で少し詳しくお聞かせいただき、当日の遺伝カウンセリングの準備や方針を検討させていただきたいと思います。ご紹介を検討している医療関係者の方でご不明なことがありましたら、お気軽にお問い合わせください(臨床遺伝医療部 TEL: 092-642-5057(平日9-17時))。

担当医として遺伝学的検査を実施する際のポイント

保険収載されている遺伝学的検査は年々増え続けており、それに伴い、一般診療で遺伝学的検査を行うことは日常的になってきています。
一般検査と同様に、文書によるインフォームド・コンセントの取得は必須ですが、遺伝情報の特徴から、特に以下の点が重要です。

  • 解析手法と解析範囲

    検査会社や研究において、調べる遺伝子の種類や部位(範囲)に加えて、解析手法(Sanger法、NGS法、MLPA法など)を把握しておくことが重要です。得られた結果の正確な解釈にもつながります。

  • 予想される利益と不利益

    染色体や遺伝子の病的変化が明らかになり、患者さんの診断が確定した場合には、疾患に関連する他の症状の予測ができたり、早期治療につながったりする可能性もあります。しかし、診断がついても現状と何も変わらなかったり、逆に診断がつくことによって、将来への不安が強まる場合もあります。そのため、検査を提出する前に患者さん・ご家族に疑われている疾患の特徴や検査がもたらす意味を理解していただく、検査が陽性だった場合、陰性だった場合に、どのような気持ちになるのかなど、事前にシミュレーションしていただく機会・時間をとることをお勧めします。また、病的変化が見つからなかった場合でも、疾患を否定することはできません。

  • 予期しない結果(二次的所見)

    染色体や網羅的な遺伝子の解析においては、疑われる疾患とは別の染色体や遺伝子の変化(二次的所見)が検出されることがあります。検査を提出する前に、二次的所見について患者さんに説明し、二次的所見が検出された場合に、開示を希望するのかどうかを伺い、その意思を同意書に記入していただくことが望ましいです。

  • 検査結果報告書について

    診療として実施した遺伝学的検査の結果報告書(またはその写し)は、患者さん・ご家族にお渡しください。研究で行われた場合についても、研究計画上可能な範囲で患者さん・ご家族に結果報告書をお渡しいただけますと遺伝医療部としてはありがたいです。
    我々は、その結果報告書を参考にご本人やご家族の遺伝カウンセリングを実施します。結果報告書がない場合、情報が不十分であったり、代わりにいただいた診療情報提供書に記載の遺伝情報が間違っていたりすることがあり、結果として正確で適切な情報提供ができず、患者さん・ご家族も混乱してしまいます。これらを防ぐためにも、結果報告書のお渡しをお願いいたします。
    なお、ゲノム参照配列(GRCh37/hg37など)、NM番号、遺伝子名、cDNAのポジション(c.)、タンパク質のポジション(p.)の遺伝情報が必要です。

  • 遺伝情報の特殊性

    遺伝情報(生殖細胞系列に限る)は、一生涯変わらず(不変性)、将来の疾患の発症可能性を予測し(予測性)、近親度に応じて血縁者と一定の確率で共有します(共有性)。多くの場合は、血液だけで簡単にできる検査ですが(容易性)、遺伝子の変化がわかっても、いつ発症するか、どの程度の症状が起こるのかはわからない(曖昧性)といったこともあります。患者さんの遺伝性疾患が、予防法や治療法が確立されており、医学的介入を行わなかった場合に生命予後に重大な影響を及ぼす疾患の場合には特に、血縁者の方に知らせることの重要性についても患者さんとお話しする必要があります。

  • 非発症保因者診断、発症前診断

    現時点では症状のない人に対する遺伝学的検査は、実施前後に遺伝カウンセリングを実施することが必須です。

遺伝子による体質検査

インターネットなどで「遺伝子検査」と検索すると、さまざまな「遺伝子検査キット」が挙がってくることでしょう。あるいは「5遺伝子で3万円(格安)」とか、生命保険のオプションなどで「遺伝子検査」が含まれているパッケージもあるかもしれません。「遺伝子検査」と全て一緒くたに捉えてしまいがちかもしれませんが、これらの遺伝子検査と遺伝診療部門(医療機関)で提供する「遺伝学的検査」は、目的や検査方法、検査対象としている遺伝子などが異なります。
市販の「遺伝子検査」については、どのような遺伝子をどのように調べて、得られる結果はどの程度の根拠や信頼性があるものなのか、解析精度や品質管理はどのように行われているのか、検査後ご自身のDNAはどのように扱われるのか、をきちんと知ったうえで受けていただければ、ご自身の生活習慣の改善などにつながる検査になるかもしれません。
なお、これらの検査で「遺伝性」が否定されることは現時点ではありませんので、遺伝について悩まれている方は、医療機関の受診をお勧めします。

遺伝情報による差別に関する法律

ゲノム医療や遺伝医療が拡大するにつれて、ゲノム情報・遺伝情報を扱う機会は増していくでしょう。しかし、日本では、「遺伝子差別禁止法」のような法律がありません。米国やカナダ、イギリスなどの諸外国では、主に雇用や生命保険に対する法整備が進んでいます。
具体的な差別内容には、不当な解雇や異動、降格、就職先からの内定取り消し、婚約破棄や離婚、妊娠・出産を思いとどまるように言われた(http://www.pubpoli-imsut.jp/files/files/50/0000050.pdf より引用)など、他にも家族単位で差別の対象になったというケースもあるかもしれません。
法律により、遺伝子差別を防ぐことは意義のあることでしょうが、おそらく限界もあるはずです。米国のGINA法が抱えているように、国民一人ひとりの遺伝(継承と多様性)に関する理解を高め、倫理観を身につけることも非常に重要な課題でしょう。